サウジアラビアの医療事情とは?

本日は、外務省から発表されている世界の医療事情をご紹介。
本日はサウジアラビア。医療事情のご案内です。

1.衛生・医療事情一般

サウジアラビアはアラビア半島の大部分を占めるイスラム教国家で、国土の大半は
砂漠、あるいは土漠です。世界最大の産油国として知られており、人口は約2337万
人、在留外国人は約603万人で、公的機関以外の労働力の大半を外国人労働者に依存し
ています。首都リヤドのある内陸部は典型的な大陸性砂漠気候で、一年を通し乾燥し
ており、夏は連日40度を越す厳しい暑さが続きます。この間は夜も同様の暑さで、十
分な休養、休暇を取る必要があります。また、気温の年較差・日較差が大きく、冬に
はコートや暖房が必要となります。これに対してジェッダやアルコバールなどの沿岸
地域は高温多湿で、冬は比較的過ごしやすいですが夏はサウナの中で生活しているよ
うです。これに加えてサウジアラビアはイスラム教の中でも特に戒律の厳しいワッハ
ーブ派の教団国家の一面を持ち、アルコール、豚肉は禁止、娯楽はないに等しく、女
性の行動は大きく制限されています。
通称ムタワ(勧善懲悪委員会)と呼ばれる宗教警察にしばしば指導されることもあ
り、これは殆どの日本人にとっては精神的に大きな負担となっていきます。
サウジアラビアには明らかに蔓延しているといえる風土病は有りません。
ただし、南西部の紅海沿岸地域(イエメン国境近く)は降雨量が多いため、蚊(ハマ
ダラカ)を媒介したマラリア、特に悪性の熱帯熱マラリアが見られます。
また、2000年9月にはこの地域で同様に蚊を媒介とするリフトバレー熱(RVF)の流行
があり多数の死者を出しました。
一方、首都リヤドを含む北東部砂漠地帯、紅海沿岸砂漠地帯にはサシチョウバエ
(Sandfly)を媒介としたリーシュマニア症の発生が見られます。
サシチョウバエは小さな蚊の様なものであり、刺されると通常の蚊よりも激しいかゆ
みと腫脹を伴います。衛生環境は、場所によりますが概ね良好といえます。
ただし、安い飲食店などは溜めた水で食器を洗ったりしていますので注意が必要で
す。水道水は飲用可能の基準を満たしていますが、非常にカルシウム濃度の高い硬
水です。イスラム教の聖地メッカを抱える当地では、大巡礼など巡礼者が大勢訪れる
時期に輸入感染症が問題になります。水際作戦は徹底していますが、特に問題とされ
る髄膜炎菌性髄膜炎は、流行したとされる2000年には300件以上報告されています。
ただし、このうち半数以上がメッカでの報告です。例年は年間50件程度、少ない年に
は20件程度です。

■サウジアラビアの医療事情は、オイルマネーの力をバックに、施設や設備などのハ
ード面ではかなりのレベルに達しているといえます。サウジアラビア人向けとしては
全国に1800カ所程度のヘルスセンターという診療所があり、ここで歯科を含む初期治
療が受けられます。また、各地域には国立基幹病院がくまなく整備され、必要な場合
はヘルスセンターの紹介でこれらの病院や、主要都市にある王立病院、専門治療施設
を受診するシステムになっています。ただし、王立病院を除けば、その設備は老朽化
したものが多く、建物も簡素なものが多いです。また、基本的にサウジ人は無料でこ
れらの施設を利用出来ますが、髄膜炎の予防接種などや緊急の場合を除けば外国人は
利用できません。

■外国人向けとしては、富裕サウジ人及び欧米人を対象とした近代的な私立病院が多
数あります。また、一部王立病院は外国人にも開放されていて、これらの私立病院
や、王立病院のなかには、日本の一般市中病院のレベルを遙かに凌ぐ設備を備えてい
る病院も珍しくありません。一方、医師、看護師などソフト面では、サウジアラビア
は依然、外国人の出稼ぎ労働者頼みなのが現状です。近年、ニューヨークの9.11自爆
テロ以降、欧米系の医療従事者が国外流出し、医療ミスが増えているとの指摘があり
ます。現在の当地医師の国籍はエジプト人、パキスタン人、バングラディシュ人をは
じめ、シリア人、レバノン人、など周辺アラブ諸国がほとんどです。一方、看護師は
フィリピン人、インド人、パキスタン人、中国人、南アフリカ人などです。医療ミス
を犯す医師には、出身国の資格試験に合格していないものが多いとの指摘もあり、全
外国人医療従事者に能力評価試験を課することを含め、医療水準維持のための対策を
様々な方向から探っているところです。

2.かかりやすい病気・怪我

(1) 鼻咽頭炎、上気道炎:リヤドなどの内陸部では湿度が5%以下となることもあり
ます。体表の乾燥は鼻・咽頭粘膜の炎症を促進します。また、当地のパウダー状の砂
はしばしば風で舞うため、知らないうちに吸い込んでしまいます。外出後のうがい、
ガーゼマスクなどによる防御を心がけ、乳幼児のいる家庭は加湿器の使用も考慮して
ください。

(2) 熱中症:長時間の野外滞在や運動により発症します。体温の上昇がないものに
「日射病」「熱痙攣」があります。体温の上昇を伴うものは「熱疲労」「熱射病」と
呼ばれます。水分、塩分を十分摂るとともに炎天下での単独行動はさけてください。

(3) 角膜炎:コンタクトレンズの装着は、当地内陸部においては眼球が乾燥しやす
く、砂塵が入り不潔になりやすいので十分な注意が必要です。角膜潰瘍になっても自
覚症状の出ない場合もあり、できれば眼鏡使用が無難です。やむを得ず装着する際は
点眼薬を常備して下さい。点眼薬は市内の薬局で容易に入手できます。

(4) 皮膚炎:アトピー性皮膚炎のような肌荒れ症状がよく見られますが、実は乾燥
によるものです。強い日差しを避け、乳液やクリームなどで予防は可能です。

(5) 肝炎:ウイルス性肝炎の発生は日本よりはるかに多く、経口感染による急性A型
肝炎では高熱や悪心・嘔吐、下痢、腹痛、黄疸などの症状を呈し、ときに劇症化して
死に至るので甘く考えるのは危険です。

(6) マラリア:ハマダラカに刺されて感染します。サウジアラビア南西部、イエメ
ン国境近くの紅海沿岸地帯で集中して発生しています。ほとんどが悪性の熱帯熱マラ
リアです。雨の多い冬季に多発しますので、注意が必要です。この国のマラリアは依
然クロロキンが有効とされていますが、服装やスプレーなどで蚊への対策を万全にす
れば、特に予防内服は必要ないでしょう。抗マラリア剤で治療します。

(7) 髄膜炎:髄膜炎菌による感染症。飛沫で伝染します。軽度な風邪様症状から痙
攣、意識障害などの重篤な症状まで多彩です。ハッジ(大巡礼)期間にはアフリカの
流行地から巡礼者が大勢訪れるため、注意が必要です。抗生物質で治療します。

(8) リーシュマニア症:普通スナネズミを宿主とし、サシチョウバエ(サンドフラ
イ)という蚊に似た小さな昆虫に刺されることによって、リーシュマニア原虫が感染
します。皮膚に潰瘍を作る皮膚リーシュマニアがほとんどですが、原虫が内臓に侵入
し、死に至る可能性のある内臓型リーシュマニアの発生の報告もあります。首都リヤ
ドを含む北東部砂漠地帯は流行地域とされていますので注意が必要です。治療は難し
く、5価アンチモン剤等が用いられます。

(9) ブルセラ症:ブルセラ症の発生が多いのは特記すべきことです。この病気は西
欧や日本では根絶されています。加熱処理が不十分な羊やラクダの乳製品には気をつ
けましょう。特異的な症状はなく、全身倦怠感、発熱で発症します。抗生物質で治療
します。

(10) アメーバ赤痢:汚染された食品や水を介して感染します。主な症状は粘血便を
ともなう腸炎ですが、特にジェッダで多発していますので気をつけましょう。抗寄生
虫薬で治療します。

(11) サルモネラ症:これも比較的多く報告されています。生卵や鶏肉などから経口
感染します。日本では食中毒の原因として多い感染症で、主な症状は腹痛、発熱、嘔
吐、下痢です。抗生物質で治療します。

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